2016年9月28日水曜日

吉田沙保里の名を冠した三重県津市の施設建設現場でベトナム人実習生が使い捨ての奴隷労働

 「五輪ヒーローの名に傷はつかないか」-。津市内の警備会社(廃業)の元役員四人が二十七日に入管難民法違反容疑で逮捕された事件は、市内に建設中の屋内総合スポーツ施設「サオリーナ」が舞台となった。レスリング女子の吉田沙保里選手(33)の名にちなんだ施設は、東京五輪の事前キャンプ地に名乗りを上げる注目施設だけに、市やスポーツ関係者に戸惑いが広がった。

 外国人技能実習制度を巡っては、受け入れ数は増える一方で、実習先での賃金未払いなどのトラブルが問題となっている。今回の事件で不法就労したとして摘発されたベトナム人の男性(26)も待遇面への不満から実習先を逃げ出していた。制度を悪用し、外国人を安い労働力として“使い捨て”にする業者は後を絶たない。

 外国人労働者が国内で就職するには、永住者や定住者といった在留資格を得る必要があるが、技能実習生は研修を受けるなど一定の要件を満たせば三年間働くことができる。

 制度を導入した一九九三年以降、就労要件の緩い技能実習生の受け入れは進み、名古屋入国管理局によると、製造業がさかんな東海地方では特にその傾向が顕著だという。

 県内の実習生は二〇一二年の約五千二百人だったが、昨年十月末現在では約五千九百二十人に増えている。うち七割超が製造業で働いており、最低賃金の時給七百七十一円以下で労働を強いられていることが多いという。

 三重労働局によると、一四年に実習生を受け入れていた県内事業所十二社を調べたところ、全社で賃金未払いや超過勤務などの法令違反が見つかった。期間満了前に受け入れ先を逃げ出した実習生は「労働環境が嫌だった」「他に条件の良い勤め先を見つけた」などの理由を挙げたという。

任意同行に応じて自宅から捜査車両に向けて歩く元会長世古容疑者=27日午前7時49分、津市藤方で
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 同労働局職業対策課の南秀志係長は「専門的な技術を身に付けさせるための制度だが、安い労働力として受け入れようとする現状がある。今後は受け入れ先を監視する第三者機関の設置も必要になってくる」と指摘した。

◆五輪の名誉が…「残念」

 サオリーナ近くに住む女性(77)は事件があったことを知ると「来年の開業を楽しみにしていただけに残念です」と語り、「沙保里さんの名誉を傷つけることにならないかしら」と気をもんだ。

 吉田選手の兄で、市内のレスリング教室監督の吉田栄利さん(36)は「市から事業は順調に進んでいると聞いている。コメントする立場にはないが、できる限りの改善を図って夢のアリーナを建設してほしい」と話した。

 捜査関係者によると、外国人技能実習生を不法に働かせたとされる警備会社は下請け業者として建設工事に加わっていた。市によると、同社は工事現場の警備を担当しており、直接の建設作業に関わっておらず、工期に影響はないという。

 一方で、事件の発覚を受け、市は原因究明のため、元請け会社への聞き取り調査をすることを決めた。

 サオリーナの建設は市の目玉事業だけに、事件を知った市職員たちは「注目の施設で、こんなことがあるなんて残念」と口々に漏らしていた。

 市の松本尚士総務部長は「発注先に事実関係の確認を求めたところであり、事実関係を踏まえ適切に対処してまいります」との談話を発表した。

◆「外国人雇ってない」逮捕前に容疑の元会長

 入管難民法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕された警備会社「ウィード」(既に廃業)元会長の世古英雄容疑者(59)は逮捕前に本紙の取材に「外国人を雇った事実はない」と繰り返し否定していた。一問一答は以下の通り。

 -サオリーナの工事現場で、かつて会長を務めていた会社が警備にあたっていた。外国人を不法に働かせていたことはないか。

 働かせていない。そもそも外国人は1人も雇っていない。

 -サオリーナ建設は津市の目玉事業と思うが、どうか。

 世界で活躍する選手の名前を取っていて、日本というより世界のサオリーナだと思う。

 -サオリーナ以外の現場では、外国人を働かせていたのか。

 働かせたことはない。

 -過去にも外国人を雇ったことはないのか。

 経営は元専務が仕切っていた。仮に雇っていたことがあったとしても、元専務がやったことで詳しく知らない。

 (鈴鹿雄大、大島宏一郎、松崎晃子)

http://www.chunichi.co.jp/article/mie/20160928/CK2016092802000024.html


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