三重県名張市で1961年3月、女性5人が毒殺された名張毒ぶどう酒事件で、殺人罪などで死刑が確定し、無罪を訴えて第9次再審請求中だった奥西勝死刑囚が4日、収容先の八王子医療刑務所(東京都八王子市)で死亡した。89歳だった。法務省によると、死因は肺炎だった。
奥西死刑囚は2012年に肺炎で体調を崩し、名古屋拘置所から八王子医療刑務所へ移送された。13年には呼吸困難で2度、一時危篤状態となり、回復後も寝たきりの状態に。今年8月下旬以降は、意識が回復しない状況が続いていた。葬儀は6日に都内で親族や弁護団、支援者らの密葬で行う。
再審請求中の死刑囚の獄死は、1987年に95歳で死亡した帝銀事件の平沢貞通元死刑囚の例などがある。奥西死刑囚の再審請求は親族が引き継ぐとみられるが、第9次請求は本人の死亡で事実上終了する。
奥西死刑囚は事件の数日後、「妻、愛人との三角関係を清算するため、ぶどう酒に農薬ニッカリンTを入れた」と自白し、殺人容疑で逮捕された。しかし、その後否認に転じ、裁判では一貫して無罪を主張した。
64年の1審・津地裁は、被告の犯行と認めるに足る証拠はなく「自白も信用できない」として無罪判決を言い渡した。しかし、69年の2審・名古屋高裁は、ぶどう酒瓶の王冠の傷と奥西死刑囚の歯型が一致するとした鑑定結果などを根拠に、自白の信用性を認め、逆転死刑判決とした。戦後初の無罪から死刑判決で、72年に確定した。
奥西死刑囚は翌73年に再審請求を開始。第7次再審請求で、名古屋高裁は2005年4月、犯行に使われた毒物はニッカリンTではないなどとする弁護側の新証拠を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認め、再審開始を決定した。
しかし、06年12月、名高裁の別の部が取り消し。最高裁の差し戻し、高裁の再度の取り消し決定を経て、最高裁は13年10月に再審を認めない決定をした。死刑囚の再審開始決定が取り消されたのは唯一だ。
弁護団は同年11月、8度目の再審請求をしたが、最高裁に特別抗告中の今年5月に取り下げた上で、毒物に関する別の「新証拠」を基に、第9次請求を申し立てた。
(中日新聞)
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